太極拳談義

2016年7月14日

「太極」談


生徒:本日は先生に太極拳に関する質問をさせて頂きたいのですが、お願い出来ますか?

顧先生:はい、分かりました。どうぞ。


問:まずは単刀直入に、太極拳とは何でしょうか?

顧:太極拳は中国武術の優れた拳種の一つであり、柔和、緩慢を主とする拳法です。太極拳の訓練は、意念(意識)が集中するので精神面が鍛えられます。そして運動量を自分の年齢、身体の具合によって調整でき、体力を強化するのに効果的です。さらに、楽しみながら用法(動作の意味)を味わい、心、技、体を総合的に鍛練する事ができます。


問:では、太極拳は武道でしょうか?

顧:太極拳は武道です。その本来の顔は実戦に用いるものであり、命を懸けて戦う戦場から生まれたものです。闘いに中途半端な技で臨めば負傷し、或いは命を奪われる可能性もあります。だからこそ武道には身を守るための実用的な技術が集められ、研究、研鑽されて来ました。そして、それらを日々鍛錬し続けること、これが武道であり、すなわち太極拳です。


問:今、世の中の太極拳のイメージは健康体操のようですが、その点はいかがでしょうか?

顧:そうですね。現在、多くの人が太極拳に親しんでいます。化粧をして綺麗な衣裳を身に着け、音楽を流しながら練習、演武を行っているのを見かけますが、その多くは体育であり、健康法の色が強く、趣味娯楽で行う踊りと変わりがありません。これは格闘技から次第に健身、または体育科目としての心身の鍛錬、修養から芸術表現となってしまっています。私は、これは「武の舞術」と視ています。実戦にはどうかなあ?と思います。


問:では、今の太極拳は偽物ですか?

答:いいえ、偽物ではありません。

実は、太極拳は五段階に分けられています。

一、有形無意;二、有形有意;三、形意気合一(形神合一);四、有意無形;五、随心所欲。

分かりやすく説明すると、各段階が要求する具体的内容は次のようになります。


一、有形無意:動作の規格、姿勢、速度、リズム;

二、有形有意:動作の用法を知る;

三、形意気合一(形神合一):用法や呼吸や動作を合わせて全身で運動する;

四、有意無形:繰り返し真髄を身体に滲みこませる;

五、随心所欲:技を活かし強化する。必要な時、無意自然に応用出来る。


今、世の中のほとんどの太極拳は、動作の規格、姿勢、速度、リズムを追求していて「有形無意」の一段レベルに止まったままで先の道が分からない。見つからない。教えてくれる先生がどこにいるか分からない。これが現状となっています。


問:太極拳と踊り・体操の違いは何でしょうか

顧:体操、踊りであれば防衛、攻撃などの用法意識は存在しません。よって内在の用法を意識で強化することもありません。格闘技としての性能がなければ実戦に役立つこともありません。太極拳の見た目は単純ですが、とても奥深いです。これが太極拳の本質であり、動作形成の原点です。即ち、太極拳の動作の中には"意"があります。意とは用法(使い方)です。動作ごとの防御・攻撃の用法とその解釈は非常に興味深く、本当に奥深いです。諺には"動々有法,法々有用(全ての動作は用法であり、全ての用法が使える)"と言います。


問:ダンス、新体操、体操競技と太極拳の区別はどこにありますか?共通点はありますか?

顧:ダンスや踊りは音楽を流しながら動作します。あくまで音楽を主体として、音楽、或は何かの表現や意味に沿って動作するのでスポーツ科目にはなりません。体操はスポーツ科目ですが、主に身体を鍛錬するから主体は体にあります。音楽を付けながら行うものも多いですね。例えば、ラジオ体操、新体操などです。体操競技(器械体操)、例えば平行棒、鉄棒、マット運動などは音楽を使用しません。もし、音楽を流して練習したならば、集中力が分散して危険性が増すからです。集中のために音楽を使用しない点に於いて、武術、太極拳と似ています。日本の剣道、柔道、空手、相撲など格闘技とも同じです。心、体、技を訓練する時には集中力が必要です。音楽を使うと心が揺さぶられて混乱を招きます。これでは格闘技にならないでしょう。ですから武術、太極拳を練習する際に、集中力を分散させてしまうと中身の体現、強化、訓練の効果が下がります。特に太極拳は、原則として"心静体松"の要領があり、心を落ち着かせ、集中力を高めて、全身全霊で訓練します。よって伝統の訓練方法は音楽を使用しません。もし演武で音楽の必要があれば、あくまで太極拳自体を主体とし、音楽は付属のものとします。これは太極拳の中身、真髄を鍛えることが揺るぎない主であるためです。音楽は後から付け足すものであり、動作に添えるものでしかありません。もし、音楽を主体として武術、太極拳を演武する場合は、「武の舞術」だと私は思います。


問:では、真の太極拳とは何でしょうか?

顧:太極拳は、体の外部と人間の内在が身体に一体となって技とします。外部とは、身体の動き、動作の規格、リズム、速度などで、内在とは、動作の用法、志、呼吸、理念などです。動作の用法、志、理念を真髄に構成して、魂となり、訓練を通して、真髄、魂を身体に浸透させます。そして、動作を通して、身体の精技(注1)、血気、呼吸、心神、神志を鍛えて、神髄の道へと上達して行きます。いざという時には自衛術、格闘技として身を守る役目があります。これが武道であり、真の太極拳です。

(注1:粗雑さや悪い癖が無い純粋な技)。


問:もう少しわかりやすく説明して頂けますか?

顧:はい。太極拳は、外部の動作の動きと内在の動作の意味、用法、呼吸など、全身全霊の運動であり、自分自身の理性、感性、心などの全てを、身体(動作)を通して表現する運動です。特に内在の内容、用法などは太極拳の骨子(実質)であり、これは意識、心、呼吸など、人間の奥、内部、深部の動きであり、真髄とも言え、これは太極拳の特徴です。中国には、「身入其境」と言う諺があります。「身はこの境の中にいる」という意味です。武術や太極拳を訓練する時は、正にその諺通りの境地に入ります。練習、演武する際、敵を想定して、全身全霊で気合を入れて真剣に行います。用法を表現すると、集中力が高まり、呼吸が変わり(自然呼吸法から拳勢呼吸法へ変わる)、気持ちも表情も変わり、別の世界(戦いの世界)に入り、まるで別人になります。これは内在の力が身体、動作を通して表現されるからです。外見は簡単な動作であっても、動きの中に実物(用法、心神、志神など)が明らかに内在し、しかもそれは非常に重く重要なものです。これが太極拳の真髄、魂です。この真髄があるからこそ、「太極拳の動作は簡単だが中身が深い」と評価されており、いざという時に無意識で応用することが可能になるのです。


問:太極拳の要諦、真髄とは何でしょうか?

顧:太極拳における運動の要諦とは、用法を動作で表現し、その動作に呼吸を合わせることです。そして、その質を高めて行くことです。用法を意識し、身体の外部(体幹、四肢など)と呼吸、意識、精神、気持ちなどの心身の内在を統一、相合しながら鍛えていく。これが太極拳の要諦、真髄です。高度な目的を達成するためには、日頃の練習の中で動作の中にある用法の意味を想定し、深く味わいながらトレーニングを行う。それを長期間に行えば意識(用法のイメージ)、動作(身体表現)、呼吸(拳勢呼吸)が一体となっていきます。練習は有意識で行うが、いざとなれば無意識で使われる。これが太極拳本来の顔です。太極拳は"綿(形)里蔵針(意)(綿の中に針を隠す)"の技術であり、ゆっくりとした動きを通して動作の意(用法・魂)を味わい、そして、身体の全体(内在と外部)に全心全霊で表し尽くす運動なのです。


問:医学的な視点から視て、太極拳を練習する時に気を付ける点がありますか?

顧:太極拳はゆっくりとした運動であるため、身体にとって良いと思われているが、実はその運動の中に怪我の要因が隠れています。

要因其の1、太極拳はゆっくりとした運動なので遅筋及び等張性収縮の訓練のみで、速筋の訓練がほとんどない。

其の2、太極拳運動は中腰で行うので、膝関節疲労が発生し易い。

其の3、膝関節は15°~20°間に大腿骨を後ろに滑らせながら転がり動く(運動する)特徴が有る。

其の4、技術的な問題があるなどです。


以上の理由により、我々は太極拳を練習すると同時に、膝周りの筋力強化が必須です。


例えばジムに通い、膝周りの筋肉、腹筋、背筋の筋力の強化を行ってもよい。これは非常に重要な対策です。何故なら痛みや病変が発生したならばもはや手遅れになっているからです。もし膝関節のまわりの筋力を強化しないで、長期間、太極拳を練習すると、膝の痛み、水溜、膝関節可動域(ROM)制限、半月板、靭帯損傷などが発生します。酷い場合は正座不能、人工関節置換などを招きかねません。私はこれらの病状に対して「太極拳損傷」と命名し、この問題点をこれから更に研究して行く予定です。

私達が太極拳を練習する一番の目的は護身術を身に着けることです。身体の丈夫さと健康は護身術の土台であり、怪我をしてしまったら何もならず、一生懸命練習に打ち込んで来た当人にとって非常に悲しい結果です。くれぐれも怪我をしないよう、この点を重要視してください。


問:太極拳は簡単なようですが本当に中身が深いですね。学問としても深そうですね。

顧:そうですね。太極拳は一つの伝統文化として哲学、心理学、倫理、道徳、力学、医学などの要素まで全て含まれています。


問:先生の本が出版される予定を聞きましたが、どのような状況ですか?

顧:そうですね。皆さんの希望に答えられる本を出版する為に一生懸命に頑張っています


問:いつ頃出版予定ですか?本のタイトルは何でしょうか?

顧:そうですね。今年の秋頃の予定です。書名は《太極拳の奥義・真諦》です。完成したらぜひ皆さんに読んで頂きたいと思います。読めば必ず感想が溢れると思います。近いうちにホームページでも出版予定を掲載しますので、チェックしてみて下さい。


問:本日はありがとうございました。

顧:ありがとうございました。

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