掌は拳より優れ、指は掌より優れる”のは何故か?

2015年12月20日
 

一、問題を提起

中国武術の中に“拳不如掌,掌不如指(掌は拳より優れ、指は掌より優れる)”と言う諺がある。即ち、実戦においては“拳と掌を比べると掌のほうが良く、掌と指を比べると指のほうがい良い”と言う。その理由はどこにあるのだろうか?科学性がどこまであるのか?私は今回、此の点を検証しようと思う。

 

二、拳、掌、指の特徴

(一)、手の構造と拳

 手の骨は27個の小さな骨で構成されている(図1)。

指を握ると拳となる(図2,3)。

(二)、前腕骨と掌

掌:掌は主に尺骨と橈骨で構成される(図4)。大抵の場合、尺骨と橈骨の前端の掌根(図5)と言う部位で攻撃する。各流派によって練法と用法は様々である。

ここでは心意六合拳・十大形の練法と用法を用いて説明してみる。

 

心意実戦打樹功(シンイスザンダァスウグン)

練法:掌で樹を打つ。“虎撲双把(ホウプソァンバァ)”と言う(図6.7.8.8)。

鷂子単(ロウヅダンファンスン)  

用法:右掌で下から相手の顎に打つ。“托打下顎(トダァシャウェ)”と言う(図9.10.11.12.13.附13)。

 

以上の運動をみると一般的に掌根で打撃する時は、負荷及び反作用とも橈骨及び尺骨の一直線上であることがわかる(図13)。

 

(三)、指と用法 

指に於ける最も重要なポイントは用法、技にある。指の使い方を技法から分析すればその威力が分かると思う。ここでは指で攻撃する視点から探究してみよう。

 

1、擒 拿: 

黄牛鼻(ホァンニュウチェンビ)

 

用法:人差し指と中指で相手の鼻腔を引く(図14.15.16.17.18.附18.19.20.21.附21)。別名を“鎖頚扣鼻(ソォジンコウビ)”と言う。

2、通背拳:

二龍取水(アイロンチュンスェイ)

用法:二龍取水は又、“二龍戲珠(アイロンシヅウ)”と称する。右の人差指と中指で相手の目に刺し“戳眼(ツォイェン)”。続いて左手の親指と人差し指で相手の喉を打ちながら掴む。“鎖喉(ソホウ)”と言う(図22.23.24.附24.25.附25.26.附26)。

3、心意拳:

①白蛇吐芯(バィスウトウシン)

用法:右手の人差指と中指で相手の喉に刺し込み、“戳喉(ツオホウ)”と言う(図27.28.29.30.30)。

②大龍形(ダァロンシン)

用法:右手の指で相手の腋下を攻撃する(図31.32.33.34.附34)。

③鶏歩撩陰(ジブリョウイン)

用法:左手の薬指と小指の背側で相手の急所を打つ(図35.36.37.附37)。

三、技術分析

(一)、拳:拳を構成する骨は指、手、腕に27個あり、相手に突き込む際、作用、反作用の原理で手首と指にどの位の負荷がかかるだろうか?私は此の事に長らく疑問を持っている。

例えば相手を拳で攻撃する。その時の攻撃力が50キロだとすれば、自分の手、腕部位も50キロの反作用力を受けることになり、攻撃力が強ければ強いほど反作用も大きくなる。

若し拳に強烈な反作用の衝撃を受ければ結果はすぐに分かるだろう。小さい27個の骨で複雑に構成された拳が強烈な衝撃を受ければ骨折、損傷は免れない。

確かに拳を丈夫にする為のトレーニングは存在するが、然し、幾ら訓練しても拳で堅いもの(例えば板、かわらなど)を打つことは、手の構造上、骨折や損傷のリスクが高い事を認識しなければならない。

ボクシングは試合や訓練する時に先ず包帯で手首と手をしっかり巻き、手首を固定してからボクシンググローブを使用して闘う。此のやり方は「手を怪我させない“安全第一”」を目的としているからだろう。

(二)、掌:掌を構成する尺骨、橈骨は大きな管状骨(長骨)である。一般的に前端の部位、掌根で打つ。掌根で打撃する時に作用及び反作用とも二つの管状骨に一直線に至る。

拳で突き、打つ時は反作用の原理で手首と手にかかる負荷が大きく、骨折などのリスクが高いが、掌で打つ場合は尺骨と橈骨から真っ直ぐ相手を打つので手の27個の骨にかかる負荷は無く、リスクが低い。

事実上、拳(構成する拳の27個小さい指、掌、腕骨)に比べると、掌(構成する掌の骨、そして尺骨、橈骨)は骨の数が少なく、負荷、反作用も二つの骨の直線上にかかる為、同じ衝撃を受けても、骨折、損傷し難い事は明白である。

(三)、指:指の用法はとても絶妙であり、まさに神技と言える。私は技法から探究、評価するべきだと思う。

指で施法する時、指の力の大小で評価するべきではない。技自体、即ち、技法の実用性、有効性、効果性等を評価するべきだと考えている。例えば前文の指で行う戳眼、扣鼻、鎖喉、戳腋下、弾襠などの技を見ると、攻撃部位は全て急所であり、小さい僅かな力で相手に致命傷を与えることが出来るからである。指は技を使っているから怪我も損傷もまず無い。

 

四、結論

(一)、拳と掌を構造的に比較すると、若し同じ攻撃力で打撃する場合は、拳を構成する27個の骨の一体性は弱く怪我の危険性が高い。掌は数個の手の骨と尺骨と橈骨で一直線に構成されており、拳より丈夫である。よって確かに“拳と掌を比べると掌のほうが良い”。

(二)、指は技によって必ず急所に使用される為、致命傷を与え、使用した相手が死傷する危険性が高い。よって指による絶技は“掌と指を比べると指のほうが優れる。”勿論、近代格闘界では全面的に使用が禁止されている。

 

以上の検証により、中国武術の“拳不如掌,掌不如指”の諺は確かに科学性があり、論点を成立することができ、評価出来ると考えられる。

 

参考書:

1、からだのしくみ事典       浅野伍郎 監修     成美堂出版

2、史上最強図解 これならわかる!解剖学   竹内修二 著      ナツメ社

 

 

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