八極拳の強さの秘密とは?
中国武術界の中で八極拳はとても地位が高い流派である。どうして八極拳は有名なのか？その中にはどんな秘密があるのか？強さの理由はどこにあるのか？今回はこれを探究してみよう。
中国武術の中に様々な流派がある。各流派とも特徴はそれぞれである。例えば、翻子拳は動作が速い。その動きは“双拳蜜如雨，脆快一掛鞭（双拳の密なるは雨の如き、脆快なること一挂鞭の如し）”と例えられる。太極拳は“借力打力，四両撥千斤（力に対し力を借り、小さい力（四両）で大きい力（千斤）に勝つ）”であり、相手の力を借りて相手を倒す。通背拳は“伸長撃遠（長く伸ばし遠くまで撃する）”の特徴があり、まず先に自分を守ることを考える。そして攻撃が遠距離まで届くように打撃する。
八極拳の特徴は自分が軍の戦車のように、強引に敵に突っ込む。然し、自身はまるで「鋼鉄の守護神」のようにいくらぶつかっても怪我しない。そして練習では最大の発勁を常に求めている。私は「八極拳の強さの秘密は特有の発勁の方法にある」と考えている。
では、八極拳の発勁の種類及び特徴などを探究してみよう。
一、十字勁
八極拳の発勁は基本として十字勁を求める。全ての動きは重心を真中にして、動作は八方四面に伸ばす。終始バランスを整えて十字勁で行う。動作“上歩頂肘在中堂”（図1.2.3.4.5.6.7.8）を検証してみょう。
上歩頂肘在中堂（サンブティンゾウザイツォンタン）
十字勁は人体を支えている足底面の重心を真中に保つ。相手を攻撃する時はまず自分が安定しなければならない。
自分自身が安定していれば幾ら衝撃力、破壊力を強く出しても自分のバランスは崩さない。
訓練方法として、自分の身体を鍛える為に日々樹などに向けトレーニングする。これも基本である。身体が丈夫ならば、相手に突撃した際に自身の損傷は生じない。
八極拳は身体を一体にして全身をひとつの塊のように攻防する拳種であり、十字勁はそれを可能にするために身体を整える勁なので“整勁”とも称する。
二、伝達法
八極拳は発勁する前にまず右踵を挙げ、次に右踵で地面を全力で踏み込み、地面から作用する。最大限に発勁する為にこの反作用を利用して発勁を発揮させる。“迅雷貫耳打太陽”（図9.10.11.12.）動作を説明しよう。
シンライクァンアイダタイヤン
迅雷貫耳打太陽
この発勁方法は八極拳派の最大の特徴である。即ち、他の流派にはこのような発勁方法は存在し無い。右踵を挙げてから地面を踏み、反作用の原理で勁を足から腰に通し、肩、腕、拳に伝えて最後、攻撃点に至る。この発勁方法で攻撃力を向上させられる。
私はこの発勁方法を「伝達法」と称する。
三、突進力
震脚を使い、全身に分散している勁を集めて無理矢理に相手に突っ込む。“刁手大纒”
（図13.14.15.16）動作を看てみよう。
刁手大纒（ティウスウダツァン）
八極拳の震脚を利用して独特の重心移動法で急激に放たれる肘撃や靠撃など、この大爆発のやり方は最大限に破壊力が生まれる。“無堅不催，勢不可擋（どんな堅いものも壊す事が出来る、その勢いは止められない）”で絶大な衝撃力となる。
四、時間勁が長い
八極拳の技撃方法は、挑打、肘撃、靠撃などである。しかも、突進力、伝達法、十字勁などの発勁方法を持つ。相手を防御ごと打ち破るほどのパワーを用いた一撃必殺を旨とする。攻撃、発勁する時に動作によって明勁、暗勁、寸勁を自由自在に使い、勁を相手に与える時間が長い。即ち、時間勁が長い（注.）。よって最大の破壊力、衝撃力を相手に与えられる。
五、全力で尽くす
八極拳の毎動作は意識、呼吸、動作、そして全身運動で、練習でも実践でも身体に分散した力を集めて全力で爆発させる。いざと言う時、最大の破壊力で相手に突進する。高い破壊力を身に付けているから当然、一撃必殺となるだろう。
十字勁で自分身体のバランスをコントロールし、踵で地面に踏み込み、“伝達法”を行い、震脚を使って突撃して相手を防御ごと打ち破るなど、やはり八極拳の強さの秘密は発勁にある。
八極拳の発勁の方法は独特で、他の拳種類、流派に比べると、特有な強さ、特別な衝撃力、破壊力が高い拳法である。
中国武術の中に“手快打手慢，力大打力小，胆大打胆小（手の速い方が手の遅い方を打つ。大きい力が小さい力を撃つ。勇気の強い者が勇気のない者を討つ）”の諺がある。八極拳の特徴は“力大打力小”の諺にぴったり合っているではないだろうか。
注：暗勁、明勁、寸勁、時間勁については「武道の“勁”」の文を参考して下さい。