抱拳礼
中国武術界ではお互いに挨拶する時、或は演武、試合する前に左掌を立て、右拳を握る動作で礼をする(図1)。この動作は“抱拳礼(ボウチェンリィ)”と言う。
抱拳礼をする時に左掌を立てる意味は、掌を拳より上にする事で礼を先に示す。掌は善を表し、相手を尊敬する意味がある。同時に右拳は中と和を求める事を表す。
拳は、単なる「武力」の意味ではない。「裁定」であり、中と和を強調する意味である。即ち、拳は調和の手段のひとつとして裁くことが含まれる。悪に対して善を勧め、邪に対して正に戻し、世の中に対して中と和を求める。
“抱拳礼”を行う時は、両手とも親指を内(体側)に、小指を外(前方)に向ける。その意味は“江湖上我不敢称老大(世の中に対して自分を偉大と称さない)”であり、謙虚の姿勢である。若し両親指をどちらかでも上向きにすると、自分が偉大である事を示すので、やってはいけない。
※以下の様に親指を立てる動作は全てやってはいけない。
“抱拳礼”は時代によって意味にやや変動があるが、基本的な主旨は変わらない。
それは、
1、私は完璧な人間を目指して修行している。
2、私は武士(侍)を目指して常に“中”と“和”の心を持ち、そして“仁”と“義”を魂に刻み精進する。
3、身体と心を強くする為に武技を訓練し、身に浸み込ませていく。
“抱拳礼”の動作は、おしゃれだし、素敵で恰好がよく、立派な挨拶動作であると評価してもいいでしょう。