武道の“勁”

2015年12月29日

 

中国武術、太極拳の中には“勁”とか“勁力”等の文字がよく使われている。では、武道の“勁”とは何だろうか?

まずは“”の文字をよく見てみよう。

 “勁”の文字の左は“坙”であり、人体を示す。右は“力”であり、単純に力を表す。二つを組み合わせた“勁”の文字の真の意味は人間の力量の強さを現わす。

人間とは万物の霊長であり、全ての動物の中で最高位のものである。しかし、人間が大きな力量を出す為には身体の局部で動くだけでは足りない。全身で行動し、運動をしなければ最大の力量を出すことができない。即ち、“勁”は単なる筋肉の収縮で力を出すのではなく、人間が全体となり、意識、呼吸、動作を重視して、内在(心、意識、呼吸)と外在(筋肉、関節、肉体)を一体にして生まれる特有な衝撃力である。

中国武術の中に主に出現する勁は、発勁、寸勁、明勁、暗勁などである。今回はこれを解釈してみよう。

 

一、発勁

武道の技法の中には発勁と呼ばれるものがあり、その基本は全身運動である。即ち、身体全体を使って行動する。“一動無有不動,運動無微不到(ひとたび動けば全身全てが動き、運動は微小まで至る)”と言う。

その方法とは、足から地面に作用して、反作用原理で力が腰から肩、腕に伝わり、末端の一点(例えば拳が相手に当たる部位)まで力を伝え、最大限の衝撃力を発揮する。

八極拳流派は最大限に発勁させる為に、発勁する前にまず、踵を挙げてスタートする。続いて、踵で地面を全力で踏み込み、地面に作用する(図1.2)。その反作用を利用するからこそ、発勁を爆発させることができる。

私はこの発勁の方法は“伝達法”だと称する。

 

二、明勁

   一般的に、相手を攻撃する時は、拳で打つ、足で蹴る、肘で打ち込む等で、これらの動作で動く過程として;始発点~運動路線~攻撃点があり、三つの部分で構成している。この種類の動き、発勁の形式を“明勁"と称する。明勁は運動路線、運動距離が一目瞭然に見え、動きとして分かりやすい。

例えばパンチ動作とか、図3.4のように運動路線が明確で、はっきり示している動き、発勁である。

 “明勁”は人間として大抵誰でも出来る。例えば殴る、蹴るなどの自然体での動きである。勿論、訓練している人は、普通の人(訓練を受けてない方)に比べると威力が強い。訓練を積み、技術を習得しているからだ。

 

三、暗勁

暗勁とは発勁の方法の一つである。暗は暗いと言う意味ではなく、相手の身体の攻撃部位に触れてから発勁、行動することを指す。暗勁の特徴は、発勁による衝撃波を、相手の身体の内部、或は体内深部に浸透させ内傷を与える。

太極拳は暗勁の技法がとても多く、これが強さの理由でもある。それによって太極拳は中国武術界に高い地位を樹立する事ができた。

例えば太極拳の“閃通背(サントンべィ)”と言う技は、相手が右拳で自分の鼻に攻撃してきた際、自分は右前腕を架け掴みながら、防ぎ、左掌を相手の右脇(12肋骨部)に当ててから暗勁を打ち込む(図5.6.7.8.9)。

暗勁は攻撃部位の奥まで浸透し、打撃するので相手は重傷に至る。

 

四、寸勁

寸勁というのは、攻撃部位に辿り着くまでの一寸ほどの距離で最大の変速、加速度で発勁する技術である。“寸”は尺貫法における長さの単位である。主に東アジアで広く使用されている。一寸は約3.03cmである。

私はここで寸勁と暗勁の概念が明瞭に区別出来る事を皆さんに理解して頂きたいと思う。

暗勁とは攻撃部位に触れてから発勁することであり、接してから打撃までの距離と時間は制限してない。即ち、相手に触れてから発勁する距離と時間は長くても短くても暗勁である。むしろ、距離と時間が長ければ長いほど、破壊力が高い。   

 暗勁の攻撃力の大小は攻撃の時間と正比である。即ち、攻撃点に加える発力の時間が長ければ長いほど攻撃力がより大きい。よって私は暗勁×長さを“時間勁”と称する。

寸勁とは、明勁も暗勁も問わず、発勁最後の一寸の距離で身体に分散している全ての力量を一点(攻撃点)に集中して爆発させ、勁に至ることである。

寸勁を発勁する時には集中力が必要で、同時に意識、呼吸、動作を一体にしなければならない。寸勁は瞬発力であり、瞬間的に人間の力量を表すものである。繰り返して訓練を行う事により、徐々に威力を増していく。

以上の話しを纏めてみると、

勁は人間の力量であり、発勁は力量を出す事である。主に明勁、暗勁、寸勁、時間勁がある。

1、明勁:運動路線がはっきり見える動き;

2、暗勁:攻撃部位に触れてから発勁する;

3、寸勁:攻撃部位へ一寸の距離で最大の加速度で発勁する;

4、時間勁:暗勁する時の発勁時間の長さ;

 

勁及び発勁、明勁、暗勁、寸勁の関連について、簡単に説明すると、勁は人間としての力量であり、明勁と暗勁は勁を出す形式、方法である。寸勁は攻撃点に一寸の距離で衝撃力を与える事であり、明勁、暗勁ともに寸勁は可能である。

 

以上、私は中国武術の“勁”のことを述べた。ここで弁明したいのは、“勁”はあくまで中国武術特有なものではなく、(名称は異なるかもしれないが)世の中の全ての武道界に於いて武道の種類、流派を分けず、問わず存在し、例えば日本の空手道、日本少林寺拳法などの各種武技も “勁”を重要視しているということである。

 

 

© 2015 All rights reserved.| は無断で加工・転送する事を禁じます。

無料でホームページを作成しようWebnode