武技の発声

2016年2月16日

 

 発声とは声を出すことである。スポーツにおいては競技中に大きな声を出す選手の姿を見かける。例えばテニスのトッププロとして活躍するロシアのマリア・シャラポワ選手などは、その音量の数値が記事のネタになるほどである。

 武道の種類によっては訓練や、試合をする時も様々な“発声”を行う。例えば空手や剣道などの科目には叫び声が常に流れている。

 中国武術の中に流派によって様々な“発声”がある。例えば南拳、各種の対練、心意六合拳・十大形などである。

 競技、訓練中に大きな声を出すことについて、筋生理学者の谷本道哉(たにもとみちや)氏は「大声を出して一時的に興奮状態を作り出すことで、人が無意識に抑制してしまう力をカットし、いつも以上の効果が得られる」と解説している。

 中国武術界の中には様々な流派があり、各流派は発声に対して様々な方法、要求がある。

最も代表的なのは心意六合拳・十大形だと私は思う。ここで心意六合拳・十大形の発声のことを話してみよう。

心意六合拳・十大形《拳譜》の中に“発声”を“雷声”と称している記載がある。

 運動する際、動作に従って“噫、嗌”などの声を出すことを要求していて「宣洩肺気(肺気を爆裂させる)」を俗称されている。その声は「発動於意,始於丹田,宣洩於肺,爆出於口(意で発動して、丹田から始まり、出すのは丹田と肺の中もの(気と声)であり、爆裂するのは口である)」を追求している。

 雷声は叫ぶような声だが、叫び声ではない。呼ぶような声だが、呼ぶ声もではない。“沈宏震憾、驚天動地”(激烈に沈宏する気が天地をも驚かす)で驚雷(突然の雷に驚く)と同様である。これこそ、雷声と称されている。

 

  心意拳の発声は雷声をイメージしており、其の意義は極めて深い。“易経”には“震万物者莫疾乎雷,雷之為声也。其無質而有力,無象而有威,可以動物,可以啓蟄,可以鎮魑魅”と記載されている。其の意味とは「万物(者)を震えさせるのは、疾雷であり、雷の音である。その形はないが力がある。姿が無いけど威力がある。物を動かすことも、啓蟄(注1)も、魑魅(注2)を抑制することも出来る。更に“生者触之死,堅者触之催(生きている者に当たれば死ぬ。堅いものに触れれば潰れる)”も出来る。

 

 心意六合拳の“雷声”は他の拳法の“発声”と、明確に区別があり、質的に違う。他の拳法の発声は喉で行うことが多く、相応的な理論があまり見当たらない。その目的は相手を威嚇、威圧することかもしれない。然し、心意六合拳の雷声は基礎理論によって指導され、意識がある訓練の内容のひとつであり、目的は人体の各所に分散している能量(エネルギー)を、丹田と肺に集合させて、丹田から気を出し、声として爆裂させる。同時に全身をひとつに集約し、最大の威力が勁力点で爆、炸裂する。

 

 心意十大形の発声は精神を強くさせることができ、,勇気を湧き上がらせ、敵を怯えさせ、そして全身のあらゆる能量を一体に集めて爆裂を起こさせ、最も凶猛、最も過激、最も強烈な勁力を生み出すことができる。

“雷声”は心意六合拳・十大形を構成する重要な技法の一部である。

 

注:

1、啓蟄(けいちつ):冬ごもりの虫が這い出る意。

2、魑魅(すだま):山林・木石の精気から生ずるという人面鬼身の怪物。

 

 

 

 

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